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〈情報〉シフト制の問題点 シフト制の問題点/休業補償がもらえない?/不安定な勤務形態

CUNNメール通信  ◎ N01924 2021年4月12日

・新型コロナウイルス感染が広がる中、飲食チェーンや小売などの職場で働くアルバイト・パート労働者に休業手当が支払われない問題が起きている。使用者は「シフト制」だから支払わなくてもいいと主張し、労働行政もそれを追認しているかにみえる。では、どうすればいいのか、そもそも論から考えてみた。

(1)シフト制って何?

・厚生労働省は通達で「月、週または日ごとの所定労働時間が、一定期間ごとに作成される勤務表により、非定型的に特定される労働者」の働き方だと規定している。
・製鉄所や病院などのように勤務パターンがほぼ固定している交代制労働のシフト制と違い、その都度の勤務表によって労働時間が決まるのが特徴。1カ月前や3日前、場合によっては前日といったケースもあるという。
・勤務表ができないと予定が立てられず、収入額もはっきりしない。
・一方、使用者は景気が悪くなれば営業日や時間を減らし、シフトを削減して対応すればよく、使い勝手がいい仕組みといえる。

(2)今起きている問題は?

・コロナ禍で使用者が店舗などを休業した際、仕事がなくなった労働者に休業手当が支払われず、生活に困窮している問題だ。
・労基法26条は、使用者に休業手当(賃金の6割以上)の支払いを義務付けている。しかし、シフト制の場合は「労働日などが確定していないだけ。休業ではない」と強弁することが可能になっている。だから使用者に支払い義務は発生しないという見解だ。
・働く者にとっては、事実上の休業なのに休業手当がもらえない。解雇されていないから失業手当も受けられない。収入の道が絶たれるという理不尽な状況に置かれるのだ。

(3)労基署の見解は?

・勤務日や労働時間を指定するシフト表が確定した後で休業した場合、使用者には休業手当の支払い義務があるという。
・しかし、労基署はシフトが確定していない期間についてまで支払い義務があるとはいえないとの解釈だ。結果として使用者側の見解を追認する形になっている。
・解雇せず労働者を雇っているわけだから、なんらかの補償が必要という労働者の要求はもっともだ。例えば、過去のシフト表を参考に「Aさんの場合は月10万円」などとみなして、休業手当を支払わせる方法もあるのではないか。だが、労基署は「労基法26条は罰則を伴う強行規定であり、不明確な〃みなし〃で指導することはできない」と答えている。

(4)労働者は泣き寝入りするしかないの?

・政府は昨年、休業手当が支払われない労働者について「休業支援金」の制度を創設した。使用者の代わりに政府が休業手当(賃金の8割)を支払うというもので、労働者が直接、厚生労働省に申請し給付が受けられる。
・当初は中小企業だけが対象で、大手飲食チェーンなどは除外されていたが、その後に大企業にも適用できるようになった。
・もう一つ、政府への提出書類の中に「企業が休業を命じたこと」の証明が求められた。つまり「休業を命じましたか?」という設問があって、企業に「はい」と記入してもらう必要があった。企業が「いいえ」と記入すると休業支援金がもらえない。この点についても後日、過去6カ月間働いた実績などがあれば支給を可能とした。泣き寝入りとならないよう、制度の改善・緩和はそれなりに行われている。

(5)シフト制は労基法で規制できないか?

・労基法15条は労働条件を明示しなければならないと定め、施行規則で始終業時刻や休日、休暇を明確にするよう求めている。
・さらに、89条(就業規則の作成と届け出義務)の本文で同様の項目を職場の就業規則に記入するよう義務付けている。
・労働者を雇うなら、働く日や時間帯をあらかじめ明示しておく必要があるということ。ところが、少なくないシフト制職場では勤務表に「シフトを変更することがありうる」などと記載する例がある。実際には、事前に特定された日時や時間帯と異なる勤務になるケースが生じるのだという。
・場合によっては、ごく短時間やゼロ時間の勤務に変更するパターンも可能だ。
・こうした労働契約が15条や89条に違反しないのかについて、厚生労働省は明確な解釈を示さず、「法違反かどうかは個別事案ごとに判断される」という姿勢。シフトが組まれていない期間に対して、26条の休業手当支払い義務があると判断するのは困難という。
・現状では、労基法違反を問うのは難しそうだ。

(6)では、どうすればいいのか?

・仕事がそれなりにあった時には、シフト制の問題点は表面化しにくかった。ところが、コロナ禍の下で休業手当が支払われないなど、弊害が明らかになる中で、なんらかの対策を考える必要が出てきた。
・労働問題に詳しい中村和雄弁護士は、明示すべき労働条件の項目として「下限労働時間」「最低保障労働時間」「最低保証賃金」を追加してはどうかと提案している。
・現行労基法は労働時間の上限を、緩いながらも規定している。一方、下限についての定めはない。中村弁護士は、労基法1条が「労働条件は…人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければならない」と定めていることに注目。労働時間や賃金に関して、一定レベルの水準を規定すべきと主張する。
最低限の労働時間が規定されれば、それに基づいて休業手当の支払いも可能になる。

(7)労働時間の下限規制・最低保障時間を規定することは可能か?

・欧州などでは近年、「ゼロ時間契約」が問題となり、それに対応するためのEU指令(2019年)がつくられた。最低限必要な賃金の支払いを保障できる労働時間を労働者に通知すべきとした。
・ゼロ時間契約とは、オンコールワークのように、あらかじめ労働時間を定めず、仕事がある時だけ呼び出して働かせるやり方のこと。あまりにも不安定で不規則なため、
・一定の規制が必要という労働組合の要求を踏まえて制定されたのが、このEU指定だ。
・日本のシフト制とも共通する問題意識がうかがえる。中村弁護士が提案する下限時間規制も、EU指令の考え方を踏まえた提起といえる。

(8)規制すればシフト制は改善されるか?

・休業手当が支払われず、収入の道が断たれるという事態には改善が期待できるが、心配もある。
・規制が強化されれば、使用者は使い勝手が悪くなったシフト制を敬遠して、別の手法に乗り換える恐れが指摘されている。労組役員経験がある元労働基準監督官は「例えば、日雇い派遣や、1日単位でパートやアルバイトの人材を紹介する日々紹介といった形態に流れることが心配仕事があるときだけ働かせるオンコールワークが広がりかねない」と語る。
・特に、雇用関係があいまいになりがちな日々紹介に規制の網をかけられるかどうか。
・抜け道を許さない規制のあり方を模索する必要がありそうだ。

※記事作成に当たり、全労連などでつくる労働法制中央連絡会によるシフト制の批判検討会(3月25日)の議論を参考にしました。